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F2レーザー(158 nm) |
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ArFレーザー(193 nm) |
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ArFレーザー(193 nm) 2光子分 |
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この図を見ると一見エネルギーを失ったように見えます。この図には単一の振動モードしか書いてないためです。エネルギーは他の振動モードに再分配されたため、この図で示した振動モードのエネルギーは減ります。しかし全体のエネルギーは変わりません(対して溶液中では光のエネルギーは大部分失われ、S1に相当するエネルギーだけが残ることになります)。 |
さて、高温状態の生成が可能なことは分かりましたが、普通の加熱、熱反応とどう違うのでしょうか? 決定的に異なるのは 1 ホット分子の生成は瞬時 通常の加熱法では加熱する段階の途中、数百度で分子はバラバラに分解してしまい、数千度の温度を達成することは不可能です。一方、ホット分子の生成は殆どレーザーのパルス内で瞬時に(ベンゼンの例で言えば数十fs)起こります。このため通常では考えられないほどの高温状態を有機分子で達成することが出来ます。 2 「熱反応=周囲の分子も熱い」のに対して「ホット分子反応=周囲の分子は冷たい」 通常の熱反応では目的の分子だけではなく、周囲の分子全てが加熱されます。となれば、せっかく出来た不安定中間体がさらに周りと衝突し、熱反応を起こして最終的には熱力学的に安定なものになってしまいます。ところが、ホット分子になる分子(例えばベンゼン)だけが光を吸収し、周囲の分子(例えば窒素)は光を吸収しなければ励起されることもないのです。 添加気体との衝突によってホット分子は急速に冷却されます(速度は圧力に依存して自在)。つまり、数千度の超高温分子、ホット分子の反応で生じた不安定な生成物を添加気体によって急速に冷却することが可能、つまり逐次熱反応を起こすことなく取り出せる可能性があります。 衝撃波を用いて2千度程度まで加熱できる方法もありますが、この場合にも数ミリ秒かかり分子全体が加熱されるため冷却も難しく、逐次の熱反応が起こります。 ベンゼン液体にレーザー光を照射すると最終的には消し炭になるのが関の山です。ただし、ちゃんと調べると様々な芳香族炭化水素分子が生成しています。これはホット分子が溶液中で出来ても周囲のベンゼンと衝突してエネルギーを失い、その結果周囲の温度が局所的に上昇し、結果的に次々と熱反応が起き、結果的に熱的に安定なものになるためです。 3 内部エネルギーの増大、反応速度の数桁に及ぶ増加が可能 生成したホット分子が再び光を吸収し、内部転換を経て再びホット分子になれば2光子分のエネルギーが振動エネルギーとして蓄積されることなり、より高温状態が達成できます。すなわち反応速度の増大が期待できます。 |
このようなホット分子の反応はレーザーで無くても生じますが、3はレーザーを用いないと出来ません。レーザーで起きる多光子反応、ホット分子の多光子反応を利用すれば、有利な点があります。例えば、 1)反応速度が数桁増大する 2)多光子反応にもかかわらずイオン化が起きにくい(内部転換の速度が大きいため) 3)光では不活性だと思われてきた分子の反応が期待できる この例としてはビフェニレンが挙げられます。この分子は溶液中では光により全く反応しませんが、気相中では生成したホット分子がさらに光を吸収し、反応が生じます。 |
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最後に、 これまで、内部転換は単にエネルギーを失う過程の一つにすぎないと考えられてきましたが、レーザーを用いることにより光不活性分子を活性化することが出来、これは光化学の新たな一手段となると考えられます。また超高温分子の生成と、その冷却が自在なホット分子の反応は通常の熱反応、とくに素反応を考える上で重要なものと思われます。 |
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